結露で曇る窓の外。粉雪が舞い散り街は白銀の世界に包み込まれている。静かな朝。斉藤明日香はゆったりとした動きでベッドから立ち上がり窓際に立つ。
「今日は大丈夫かな……」
 若干の不安と緊張。十七年間生きて来たが、それは文字通り生きて来たと云える程には脆弱で、淡く脆い陶磁器の様である。容姿はビスクドールの如く整った美人の部類に入るが、その淡い儚さを際立たせる程に身体は弱い。気管支から来る病気が大きな原因に成っている。薬が無くては一日とて生きて行く事が困難な身体だ。明日香は窓際から見える景色を眺め乍、小さな溜息を吐く。
「学校……行かなきゃ」
 小さく呟いた言葉は生活音でかき消される。明日香はクローゼットから制服を取り出してパジャマから制服に着替えて鞄を持ってキッチンに移動すると、母親が朝食のトーストとスクランブルエッグとサラダを用意していた。
「今日は気温が低いわよ。薬忘れたりしたら駄目よ」
 母は優しい言葉を明日香に投げ掛けるが、明日香は浮かない顔をして静かに頷く。毎日繰り返される言葉のやり取り。母が自分の身体を心配してくれる事は有り難いが、過剰な愛に明日香は嫌気が差しているのも事実だ。簡単な朝食を済ませて歯を磨いてコートを着込んで玄関を出る。冷たい空気が肺の中にするりと入り込んで咳き込む。喘息特有の咳を何度か繰り返し乍一歩ずつ歩き始める。激しい運動等出来る訳が無い。弱々しい足取りで通学路を歩いていると、背後から足音が聞こえて来る。
「おはよう明日香!」
 明朗快活な声を発する少女が太陽を背に向けて立っている。その顔には笑顔が満ちている。
「おはよう葵」
 小振りな身体から元気のオーラを発している橘葵が明日香に気軽に話し掛ける。
「今日の体調はどうだい?」
「うん。まぁまぁかな」
 何時もの毎日。単調で平凡な日々。劇的な変化等を求めている訳では無いが、出来る事なら健康な身体で有りたいと心から願う。だがそれも意味を成さない事を明日香は良く知っている。通学する事すらも疲れる。歩くだけで心臓が痛くなる事がある。明らかに薬の使い過ぎだ。だが薬を使わないと倒れてしまう。使いたいけど身体に負担を掛けたくない。二律背反する思考の負のスパイラルに陥る事に嫌気が差してくる。バスの停留所で葵と二人でバスが来るのを待ち乍他愛の無い会話を繰り返す。本当に単純な事だ。好きな音楽やTV等をメインに話していると、遠くからバスが停留所に向けて走ってきて、排ガスを撒き散らしながら停車してドアが開かれる。
「ほら、明日香」
葵は何事も無い様に明日香の鞄を手に持ちバスに明日香を誘う。
「何時も有難う葵」
「もう。明日香は何時も遠慮し過ぎだよ。僕とは長い付き合いなんだから気にしなくていいんだぞ」
「うん……」
 明日香は曖昧に頷いた。葵の無償の愛情に心の底から感謝をするが、それと同時に申し訳無い気持ちに成る。卑屈になる必要は無い筈だが自然と心が卑屈になる。十年来の付き合いの友達に対してもこの態度だ。学校での存在感も察する事が出来ると云う物だ。
「明日香、今日のお昼は何時もの屋上で良いよね?」
 葵が笑顔で問い掛けてくるのに対して明日香は静かに頷いて「いいよ」と返事を返す。バスがゆったりとしたスピードで発進をして景色が流れる。見慣れた景色に明日香は呆然と眺めるだけだが、それと同時にお尻に違和感を感じる。
―ち……痴漢だ……
 痴漢が明日香のお尻を撫で回す。明日香は成す術も無く俯いていると、明日香の異変を察した葵が竹刀を取り出して大声を上げる。
「この痴漢やろう!」
 開口一撃。矢の如く早い竹刀が明日香のお尻を撫で回している手を直撃する。
「ぎゃ!」
 男は悲鳴を上げて明日香のお尻から手を退けて逃げようとするのを葵が取り押さえる。バスの中は騒然と成る。
「良くも僕の大切な友達の明日香にチョッカイかけたな。人生終わらせる気があるんだな」
 異変を感じてバスが停車する。運転士が明日香達の立っている所に現れて苦笑いを浮かべる。
「お嬢さんたち、問題が起きたなら外で解決してくれないかな。他のお客様の迷惑なんだよ」
「何が他の客に迷惑なんだい。こっちは被害者なんだ。それが客に対した物言いなのかい!」
 葵は勝気な性格の為に食って掛かる。運転士は狼狽の色を隠す事が出来ずにオロオロしていると、件の男は脱兎の如く逃げ出した。
「ふん。これだから男なんて嫌いなんだ。明日香も痴漢されたんだからもっと怒って良いンだよ」
 葵が苦言とも取れる言葉で明日香を慰めるが、明日香はまだお尻に残った男のイヤらしい感触が残っている事に戸惑いを覚える。明日香は少しだ、ほんの少しだけ他の少女と違う所がある。それはアダルトに関して興味を持っていると云う事だ。自分の病弱な身体では先は長くない。それなら体験出来る事は全てしたいと思っている。痴漢に遇う事自体別段悪い事だとは思っていない。寧ろヴァギナが熱く成り濡れてくるのが分かる。
「葵。私なら大丈夫だから……」
 思慮しながら憤慨する葵を沈めて周りの視線を気にしながら要るとバスは静かに走り出した。
「全く。最近の男は腐っているよ。明日香もそう思わないかい?」
「う……うん」
 明日香は曖昧に頷いて言葉を濁す。痴漢に遇ってアソコを濡らした等とは口が裂けても云えない。云える訳が無い
 そうしているうちにバスは学校近くの停留所に止まって明日香と葵はバスから下りて学校の門を潜る。校庭には生徒が自分のクラスに行く為に急ぎ足で校舎へと入って行く。明日香と葵も若干の足早な動きにはなるが、明日香の心臓が悪い事を気に掛けて葵はペースを落として歩いている。
「明日香、心臓は大丈夫かい?」
「う……うん」
 二人はざわつく校舎に入って同じクラスの二年A組みに入ると視線が一斉に注がれる。原因は分かっている。明日香と葵が仲が良い事を理由に難癖を付けて来る女子グループが要るからだ。
「随分遅い登校だこと」
 暗に嫌味を云うよりも性質の悪い絡み方だ。明日香は狼狽をするが、葵が間に入って毅然とした態度で文句を返す。
「何が遅いんだい?登校の時間は八時半だ。僕達は八時十分に来ている。全然遅刻をしたとか難癖を云われる筋合いは無いね」
 場の空気がヒリヒリとした空気に変わる。一瞬即発の状態だ。
「ふん。相変わらず気の強い子ね」
「気が強くて何が悪いのさ。イジメをする程に僕は落ちぶれちゃいないって事だけは確かだけどね」
「何を生意気な!」
 険悪なムードを悟った男子生徒が野次を飛ばすが、葵は無視をしてズカズカと女生徒の前に歩いて行く。
「文句があるなら僕が全て引き受ける。明日香に文句をつける事は許さない!」
 凜とした態度。明日香の全てを受け止めているからこそ出来る態度だ。
「葵……もう良いから……」
 明日香は弱々しい声で葵の言葉を遮って自分の席に着く。窓際に位置するこの席が明日香は好きだ。青い空。粉雪。何処か幻想的で儚げな冬が好きなのだ。始業チャイムが教室に鳴り響き、男性教師が教室に入って来る。
「昨日のテストの結果を渡すぞ」
 横柄な態度の教師に明日香は落胆する。この教師は何時もそうだ。横柄で横暴で不遜な態度で生徒間の人気は限り無く低い。名前の順番に全員に数学のプリントが配られて明日香は視線をプリントに落とす。点数は89点。まあまあの点数だ。身体が弱い分、人の数倍勉強をして学内でもナンバ―3に入る学力を有している。だがその事自体を鼻に掛ける気は無い。人にはそれぞれに器があり、その器以上の事をすると壊れてしまうと云うのが明日香の人生経験での経験則だ。謙虚で自分の意思を云わない暗い生徒と云うのが他の女生徒の認識だが、男子には人気がある。それは長い睫と大きな瞳。ビスクドールの如く整った顔立ちと均整の取れたボディーが物語っている。明日香の前の席には葵が座っている。葵は頭をコリコリ掻いて後ろの明日香に振り向くとテストのプリントを差し出して舌を出して笑う。
「やっぱり勉強は苦手だな。40点なんて洒落に成らないよ」
 無邪気な葵の笑みに明日香も笑みになる。何時も仲の良い二人。そして明日香と葵は男子生徒の憧れの的でもある。勉強が出来てそれでも身体の弱いクリスタルグラスの様に淡い美しさを持つ明日香と、元気はつらつで明朗快活な葵。相反する二人ではあるが自然と友達に成り、今では親友になっている。だが、明日香の心の奥底では熱い炎が燻っている。葵の事が性的な意味で好きに成っている。関係を持ちたい。だがそれは変態的な行為だと云う事は十二分に理解している。厳格な父と母に育てられた明日香は、実直な性格を求められ、明日香もそれに答える為に真面目な性格を演じているだけの毎日。だが、そんな仮初の生活が何時迄も続く訳が無い。ほつれた糸が自然と散ばる様に、明日香の心の琴線も揺らいでいる。授業は淡々と過ぎて行き、昼食の時間に成った。明日香と葵はコートを羽織ってお互いに目配せをして教室から出ると、慣れた足取りで屋上へと続く階段を上る。
「しかしさすが明日香だね。数学の点数クラス一番じゃないのかな。僕も明日香の脳味噌の半分でも良いから欲しいよ」
「そんな、買い被りだよ。私なんて……」
「またそんな暗い顔して。僕は暗い明日香は嫌いだよ」
 葵の言葉に明日香は弾かれた様に反応する。嫌いと云う言葉に過剰に反応してしまう。人に嫌われる事は慣れて来た筈なのに、葵に嫌われるのだけは心の奥底から拒絶反応が出てしまう。やっぱり葵の事が好きなんだろう。明日香と葵は閉じられた扉を開けて屋上へと出ると、ベンチに座って弁当を広げる。
「明日香の弁当。相変わらず可愛いね。それに美味しそうだ。それに引き換え僕の家庭は崩壊しているから、何時も金だけ渡されて自分で買うんだよね」
 葵はそう短く呟いてサンドウィッチと牛乳をモクモクと食べる。明日香も弁当に手を付けるが、ソッと弁当のオカズを葵に差し出して「食べて良いよ」と短く呟く。
「良いのかい?」
「うん。だって……友達じゃない」
 友達。その言葉の裏には好きだと云う感情も入っているが、それは表面に出す事無く笑顔で葵に弁当を差し出した侭で頷く。
「じゃあ、卵焼き貰うね」
 葵は嬉しそうに笑顔で卵焼きを指先で摘んで一口食べると「美味しい」と感嘆符を上げる。
楽しい昼食の時間。永遠に続けば良いと明日香は心の底から思うが、現実はそんなに甘く無い。刻々と時計は秒針を刻み時を切り刻む。そしてチャイムが鳴り響いて昼食の終了を告げる。
「よし。午後は古典だよね。僕は古典だけは得意なんだ」
 高い空。ちらほらと風に舞う粉雪。葵は空を見上げて背伸びをして身体を解す。明日香は弁当を綺麗に片付けて立ち上がると立ち眩みがして葵の胸に倒れこんだ。
「大丈夫かい?」
 葵は心底心配そうに明日香に話し掛ける。明日香は葵の胸の温もりを感じて、ヴァギナが濡れるのが分かり顔面が赤面する想いに駆られて両手で葵の肩を持って身体を支える。
「御免……」
 赤面した明日香が俯いて静かに呟くと、葵は気にした風でも無く、当り前の様に明日香に肩を貸して教室に戻る事にした。

 夕方の空は紅い。太陽が傾いて弱々しい光が街を照らし出す。明日香と葵はバスを降りて互いにさよならと云って明日香は自分の家に向けて歩き始めた時に、前からガラの悪い酔っ払いらしき男がふらふらと歩いて来る。
―どうしよう……
 身体が自然と構えてしまう。如何したら良いのか。酔っ払いに絡まれたら如何したら良いのか分からない。そうしている間にも男との距離は詰まって来る。
「よう姉ちゃん。お前さんとセックスするなら幾ら払ったら良い?」
 単刀直入な切り出しに明日香は驚きの色を隠せないでいる。そう云えば回覧板にこの近辺で変質者が現れるから注意と云う文字が躍っていた。
「あ……あの……」
「澄ました顔して、男とセックス三昧なんだろう?叔父さんと遊んでも良いじゃねえか?」
「や……止めてください」
 男は明日香の腕を掴んで離さない。酒臭い口。明日香は声を上げようとするが、恐怖の余りに声が出ない。その刹那。明日香の頬を風が吹いたと思った瞬間、男は吹っ飛んでいた。
「酔っ払いは、酔っ払いらしく家で飲んでいろ」
 甲高い声。すらりと背が高く映画俳優の様に整った顔立ちをしている。黒のスラックスと白のワイシャツ。それにロングの黒いコートを羽織っている。吹っ飛ばされた男は弱々しく立ち上がり、構える。
「ほう。俺と遣り合う気か。良い根性しているねオタク」
 男は短くそう云うと、地面を激しく踏み鳴らして右肘を男の胸に叩き込み、すぐさまバックステップをして右のハイキックを男の顔の側面に叩き付ける。
「ぐあ!」
 男は崩れ落ちる様に地面に倒れ込むが、意地で立ち上がると懐からナイフを取り出す。
「ナイフを出せばビビルと思うなよ」
 男は冷静な態度で構える。独特の構えだ。左手を下段に構えて右手を顔の前に構えて全身から殺気を撒き散らす。
「じゃまするんじゃねえ!」
 酔っ払いの男は大声を上げてナイフを繰り出して来るが、コートの男は軽いステップで交わして左膝を男の腹に叩き込む。
「ぎゃあ!」
 酔っ払いは悲鳴を上げて地面に横たわる。
「ナイフを出したって事は殺す積りだったんだろう?それなら自分が殺されても文句は云えないな」
「や……やめてくれ」
「この少女も同じ言葉を云ったがアンタは絡んだ。自業自得だな」
 コートの男は酔っ払いの男が持っているナイフを取り上げて、足のアキレス腱を慣れた手付きで切断して、酔っ払いの男の右手にナイフを突き刺す。イヤな声が住宅街を木霊する。
「大丈夫かな、お嬢さん」
 年の頃なら三十代後半だろうか。セミロングの髪の毛をセンターで分けている。瞳は冷たく眼光が鋭い。身長なら170センチと云う所だろう。痩身では有るが筋肉質な感じがある。明日香は深々とお辞儀をすると男は頷いて明日香に話し掛ける。
「この近くで店をしてるんだが、これも何かの縁だ。少し私の店に遊びに来たら良い」
「え?」
「別に如何わしい店じゃ無い。只のBARだ。昼間は珈琲を売りにしているがね」
「で……でも」
「恩人に対しては礼儀を払うのが当然だと思うがね」
 男は無言の圧力を掛けて来た。明日香は如何したら良いのか分からないが、男が下卑た欲望丸出しでは無い事を悟り静かに頷くと、男はゆったりとした足取りで歩き始め、明日香は男の後ろを付いて歩く。逢魔時。冬の夕暮れは早い。空はもう暗くなり始めている。携帯のデジタル時計に眼を落とすと、十七時を回っている。男は路地を数本縫う様に歩いていくと、一軒の木で出来た店に着いた。看板は白い文字で「ペルソナ」と簡素に書かれている。男は鍵を回して店を開けて明日香を招じ入れる。
「スツールに座ると良い。何か飲むかい?」
「えっと……」
「悩んでいるなら私が決めよう。自分で云うのもアレだが、私が淹れるキリマンジェロは中々美味いと思うよ」
「でも、持ち合わせが……」
「子供からボッタくる程に落ちぶれちゃいないよ。私の奢りだ」
 男は其処迄喋って改めて自己紹介を始めた。
「私の名前は石川英明だ。場末のBARのマスターって所だがね」
 珈琲カップに熱湯を注ぎ乍淡々と石川は話す。
「珈琲の正しい淹れ方は、カップを温める事が大切でね」
 石川は誰に話すでも無く呟く。店内にはスタンダードナンバーのジャズが流れている。明日香はジャズを聞いた事が無いが、不思議な旋律に心を委ねていると、石川が珈琲をカウンターに置いた。カウンターに置いた珈琲が明日香の鼻腔を擽る。芳醇な香りが部屋全体に満たされる。
「しかし、君はまた如何して絡まれていたんだね」
「それが、よく分からなくて」
「見た所、君は引っ込み思案の傾向があるね」
「分かるんですか?」
「ああ」
 心を見透かした様な言葉を石川は紡ぐ。あたかも精神科医の医師の様に、そして易者の如く明日香の心の奥底を見抜く様に言葉を発する。その言葉の重さに明日香も真剣な顔に成る。
「初対面でこんな相談するのもアレなんですが……」
「此処はBARであり喫茶店だ。色々な人の思想や想いが交錯しては霧散する場所だよ。君の思いもぶちまけると良い。気持ちが楽に成るだろうからね」
「実は、好きな人がいるんです」
「それは良い事だ」
「只、相手が同じなんです」
「如何云うことかな?」
「その……つまり」
 明日香が言い淀むと、石川が察した様に頷いて話し始める。
「つまり、同姓が好きって事で良いのかね?」
 石川の問い掛けに明日香は静かに頷く。顔面は赤面している事が自分でも分かる。何故初対面の人間にこんな話をしているのか。理由があるとすれば、この男には話し易い空気があると云う事だろう。
「私って変ですよね?」
「そんな事は無い。愛情って云うのは色々な形が有る物だ。そして正しい愛の形何て無い物と同じ事だ。自分の中で折り合いが付くのならそれで良いとは思うがね」
 石川が的を得た言葉を紡ぎ、明日香は静かに頷き珈琲を啜る。味は今迄呑んで来た珈琲の中でも抜群に美味い。
「君はその好きな女性と如何したいと思っているんだね」
 石川の問い掛けに、明日香は今迄の想いをぶちまけた。勿論自分の身体の弱さも含めてだ。薄いジャズが流れる店内。店の中にはマスターである石川と明日香だけだ。明日香は自然と溢れる言葉に身を委ねる様にして喋り、全ての想いをぶちまけた後に俯いて涙を流す。
「成る程ね。話を聞く限りじゃ、その葵って子は只単純に親切なだけだな。その親切な関係を壊す事が怖くて、君は後一歩踏み出す事が出来無いって事だね」
 石川の問い掛けに明日香は静かに頷く。
「君は今迄人生で生きて来て良かったと思った事はないのかい?」
 心の奥に染み込む問い掛けに明日香は自然と頷く。
「それなら話は簡単だ。二階の私の部屋に来ると良い」
 石川はそう云ってカウンターから出て明日香を促して階段を上って行くと、1LDKの部屋の隅にパソコンが置かれていた。
「私は表の顔はBARのマスターだが、AVの企画・撮影もしているんだ」
「えっ?」
「話は簡単だ。君とその葵って子をAVで売り出してみる。勿論ギャランティーは支払うよ」
「でも……葵が……いえ、その前に私も……」
「生きた証を残したと思わないのかね?」
「それは思いますけど……」
「それなら私に任せてみたまえ」
 明日香は思案する。自分がAVに出演する。仮に出演したら永久にインターネットを介して残ってしまう。怖いと云う思いが先立つ。
「私……」
「まぁ良い。今直ぐに答えを求める物でも無いからね。気が向いたら私にコンタクトしてくれたら良いよ」
 石川はそう云って名刺を一枚取り出して明日香に握らせる。
「それじゃあ。良く考えてみてくれたまえ」
 明日香はその言葉をきっかけに店を出て自宅に帰る事にした。

 一日の間に色々とあった。明日香は風呂に浸かりながら天井を眺める。葵の事は大好きだ。それも異性を好きに成る以上に好きだと云う想いが心の中で広がる。女性同士が愛し合う事は駄目な事だと倫理的には分かっているが、身体が葵を求めてしまう。湯船に浸かった侭で右手の人差し指をクリトリスに宛がいオナニーをする。
「はあ……うぁ……」
 クリトリスを中心に全身に稲妻の様な快楽が駆け巡る。オナニーを覚えたのは小学生五年の頃だ。それから体調の良い日には何度かオナニーをするが、男性と付き合った事は無い。正真正銘のヴァージンだ。但しそれは心だけがヴァージンと云うだけだ。実際には男と寝た事もある。明日香はクリトリスを刺激しながら、左手で自分の乳房を揉みしだく。乳首を中心に自分を慰める。オナニーが日課に成りつつある。
「あ……はあ……ふあ」
 右手の指先をヴァギナに滑り込ませる。ヴァギナはヌルヌルに濡れている。ヌルリと右手の指先がヴァギナに入る。明日一日の間に色々とあった。香は指先を前後左右に動かして快楽を貪る。身体が敏感に成るのが分かる。左手の乳首を弄ぶスピードが加速して行く。
「だ……駄目!ぁあ……」
 全身がビクビクと痙攣して一度目の絶頂を迎えて果てる。
「また……オナニーしちゃった……」
 快楽と同時に得る背徳感。明日香は風呂から上がって全身をバスタオルで拭うが、敏感に成り、全身が性感帯に成った状態だ。湯を拭うだけでも快楽の波は押し寄せて来る。バスタオルで全身を拭ってパンティーを穿いてパジャマに着替えて髪の毛をドライヤーで乾かす。鏡に写っている自分を見詰める。自分で云うのも変ではあるが綺麗な部類に入ると思う。だが、その美しさには病弱と云う劇薬が盛られている。何時死んでもおかしくない。医師が下した決断はその一言だった。今の現代医療では根治は不可能。呼吸器の障害を持っている。人は簡単に喘息だから仕方が無いとしたり顔で云うが、明日香は当然納得等していない。出来るならば長生きしたいし、恋もしたい。但し男性に対しては恋心を抱く事が無い自分に驚きと同時に何処か冷めた自分が混在する。今恋をしているのは葵だけだ。如何したら恋を告白出来るのか。色々と考え乍階段を上って自分の部屋に入ってパソコンを立ち上げる。親には内緒にしているが、明日香の趣味の一つにアダルトサイトの閲覧がある。サイトを渡り歩いてアダルト動画を見てオナニーをするのが楽しみの一つだ。
お気に入りのサイトを開いてパジャマの隙間から指を滑り込ませてヴァギナに宛がいオナニーを始める。流れている動画は女性同士のレズが売りの内容だ。明日香は画面を食い入る様に眺め、慣れた手付きでヴァギナを弄りながら本日二度目の絶頂を迎える。
―葵と一つに成りたい……葵となら堕ちる所迄堕ちても良い……
 明日香はパソコンの電源を落としてベッドに身体を預けて深い眠りに付く事にした。

 深い眠りの中。迷路の様に意識が錯綜する。又、同じ夢を見ている。繰り返される毎日続く悪夢。夢の中の自分は淫乱でHが大好きな大胆な性格だ。そしてそんなもう一人の明日香の人格と夢の中でまぐわう相手は義理の義父だ。母は数年前に再婚している。だが義理の父は義理の娘に当たる明日香を手篭めにした。中学三年の熱い夏の日だった。無防備な格好で寝ている所を犯された。愛撫等と云う優しい行為等は無く行き成り膣に挿入された。明日香は出来る限りの抵抗を試みたが、所詮は少女の力だ。大人の男に勝てる訳も無く、陵辱の限りを受けた。無理やりフェラチオをさせられ、口の中に濃い精子をダクダクと注ぎ込まれ、口から引き抜かれたペニスはすぐさま明日香のヴァギナに挿入された。ロストヴァージンは痛みだけだと女生徒達の噂話には聞いていたが、実際のロストヴァージンは明日香に快楽を齎した。確かに始めの頃は痛みが全身を貫いたが、徐々に快楽の波が全身を包み込み、情けない事に途中からは喘ぎ声を上げていた。
 それから義理の父との契りは続いている。母は自営でスナックを経営している。義理の父親も会社を経営している。経済的な点では何ら問題が無いがすれ違いの夫婦生活の性欲の矛先が義理の娘に向けられ、義父の性欲の牙が明日香を襲ったのだ。それは確実なトラウマになり明日香を際悩まさせる。そしてもう一人の人格が出来上がった。現実の明日香はどちらかと云うと清楚な路線だが、夢の中では淫乱な女に成っている。そしてその夢の淫乱な女である明日香は徐々に現実世界に侵食を始め、それはオナニーとして発露している。
 そしてそれらの経緯が今の明日香の男嫌いの性格を作り、同姓の女性を好きに成ると云うレズビアンな世界へと足を踏み込んだ切欠に成っている。そして今も夢の中で義理の父に犯されている。正常位・バック・フェラチオ。あらゆる体位での性行為で夢の中の明日香は犯されまくり、そして濡れたヴァギナの侭で眼を覚ました。
―また、同じ夢をみている……愛情が欲しいよ
 ベッドの上で天井を見上げながら一筋の涙を流す。葵と一つに成りたい。それは確実に破滅へと導く甘く危険な誘い水だ。だが、それでも構わないともう一人の自分が心の中で叫び声を上げる。如何すれば良いのか。石川の提案を受けると云う選択肢も無くはない。寧ろ手軽に葵を自分の物にする事が出来るとも思う。葵との今の関係を崩したく無いと云う思いと、それと正反対の破滅への道を選ぼうとする自分の思考。二律背反した考えが脳味噌の中で拡散しては消え去る。今日も学校だ。葵と一緒に登校する。それだけでも楽しみだ。だが、葵の全てを知りたい。何もかも手に入れたい。欲望に身を委ねるのか。それともルールと云う枠の世界で生きて行くのか。答えは朧気に見えている。それは確実に破滅の選択肢だ。だが、自分の残りの寿命を考えると決断するのも悪くないと思う。生きた証を残す。それが仮令辱めを受けるアダルトの世界であってもだ。石川に全てを任してみよう。他人に運命を委ねるのも良い物かも知れない。ベッドから起き上がり携帯電話をチェックする。葵からのメールが来ている。内容は身体の調子は大丈夫かと云う内容だ。明日香は「大丈夫だよ」と返信をして制服に着替えて階下のキッチンへと移動して朝食をして歯を磨いて慎重な足取りで歩き始める。今日は若干心臓が痛い。だが家族に云っても仕方が無い。自分の中で折り合いを付ける以外には道は無い。明日香はヨロヨロとした頼りない足取りで家を出て、トボトボと歩いていると、視線の先に元気な葵が笑顔で待っていた。
「お早う明日香」
「お早う」
 何時もの挨拶。だが、心の中では葵を犯したいと云う情念が蒼い炎としてメラメラと燃えている。この情念に身を委ねて破滅を迎えるとしたら如何だろうか。先の無い寿命に脅えて先細りの人生を進むのか、一気に破滅の道に成るかも知れない荊の道を選ぶのか。思案しては霧散する葛藤。明日香は地面を見詰め乍歩いていると眼前に車が飛び込んで来た。
「危ない!」
 葵が反射的に明日香を跳ね飛ばし、二人して地面を転がる。回転する世界。まるで自分の心を写しているかの様に視界がグルグル回りピタリと視界の回転が止まる。砂利が身体にめり込む。痛みは全身に来ている。明日香は頭がグラグラする中何とか立ち上がると、葵が地面に転がった侭で動かない。
「葵!」
 如何した良いのか。混乱する頭とは裏腹に身体が自然と携帯電話に手が伸びて119番を押していた。
 其処からは怒涛の様に目まぐるしく動き出した。救急隊員が到着すると同時に、バイタルチェックをし乍明日香に事情を聞くが、明日香は要領を得ない受け答えしか出来無い。葵が身代わりに成って自分を助けてくれた。勿論件の車は走り去っている。明日香は付き添いでN区の中央病院に搬送された。容態は如何なのだろうか。気になる事が心の中で風船の様に大きくなってはしぼんで行く。若しも葵の身に何かあったら狂乱してしまいそうだ。不安と恐怖が心の中で弾けては消えて行く。待合室のロビーで待っていると葵の両親が駆け込んで来た。明日香は軽く会釈をして経緯を説明した。両親は明日香の身代わりに成った事に対して何も詰問しては来なかった。寧ろ身体の心配をされた位だ。そして医師が応急室から出て来た。
「ご両親ですか?」
 医師は居たって落ち着いた言葉で両親に言葉を投げ掛け、両親は頷くと医師は「軽い脳震盪です」と短く説明をして面会室に三人を通した。
 白い部屋の中。葵は鎮静剤を点滴されて静かに寝息を発てている。その姿に明日香は心底安堵の溜息を漏らし、同時に自分に取って掛け替えの無い存在が葵なのだと改めて気付かされた。
「君は学校に行かなくて大丈夫なのかね?」
「えっと……はい」
 学校に行かないと不味いのは当然だが、この侭で葵と離れ離れに成るのだけはもっとイヤだ。明日香は初めて自分から自分の意思を伝えて俯くと、自然と涙が溢れて来た。
 付き添いの看護師が椅子を差し出して明日香を座らせる。情緒不安定だ。ベッド事個室に移された葵は静かな寝息を発てている。両親も安心したのか椅子に座って我が子を眺める。
「本当に御免なさい……私が確りしてたらこんな事には成らなかったのに……」
「君が謝る必要は無い。車の方が悪いんだからね。余り自分を責める物じゃ無いよ」
 葵が起きていたら同じ事を云ったであろう言葉を父親は優しく語り掛ける。
「それよりも君も顔色が悪い。看護師に見て貰ったら如何だね?」
「いえ……大丈夫です」
 疲労の色を隠す事が出来無い明日香に対して、葵の両親は気遣い乍椅子に座って我が子が目覚めるのを待つ。壁掛時計が刻々と時を刻み静かな病室は寒々としている。その時、微かに葵が動いてモゾモゾと動いてガバッと起き上がり「痛い!」と叫んだ。
「えっ?父さん、母さんに明日香……一体僕の部屋で何してるんだい?」
 記憶が混乱しているのだろう。父親がナースコールを押して看護師を呼び乍、事情を説明すると葵は明日香に視線を向けて「大丈夫かい?」と優しい言葉を掛ける。その言葉に明日香はぽろぽろと涙を流す。
「僕は入院なのかな?」
 そう呟くのと同時に医師が部屋に入って来て、体調を聞き出す。
「うん。別段問題は無さそうだね。これならもう大丈夫だ。何時帰っても良いよ」
 医師は短くそう云うと立ち去り、看護師が点滴の針を抜くと、葵は伸びをして身体を解す。
「うん。何だか大変な眼にあったけれど、学校どうしようかな……」
 葵にしては珍しく歯切れの悪い言葉を吐き出すと、両親は迷わずに「休みにしなさい」と云って葵の頭を撫でる。
「じゃあ。今日は両親公認の休みだね」
 葵は何時もの元気を取り戻したのかハツラツとした言葉を云ってベッドから降りて明日香に視線を送り、明日香はその視線を受けて葵に抱きつく。
「御免ね……本当に御免ね……」
 葵は涙を流す明日香を宥める様にして頭を撫でて手を繋ぐ。
「僕が明日香より先に死ぬ訳無いじゃないか。泣いている明日香は僕は好きじゃ無いよ」
 葵はそう云い切って抱き付く明日香をなだめる。
「それじゃあ。タクシーで家に帰るとしよう。斉藤さんも疲れたでしょう。家迄送るよ」
 葵の両親はそう云って歩き始めて、その後ろを追う形で四人は病院を後にした。

「揺さぶりは効果を上げるだろうな」
 石川は煙草を一服点けて紫煙を吐き出し乍車の中で呟く。病院から出て来る四人を眺め乍ニヤリと笑みを浮かべる。今回の事故の元を作ったのは誰でも無い石川だった。石川は明日香を金の成る木と判断して心の揺さぶりに掛かっている。これ迄も同じ手口で何人も自分の糊口を凌ぐ道具にして来た。石川に取って女は金を生む機械だ。表向きは気の良いBAR兼珈琲店のマスターだが、裏を返せば非合法なアダルト作品を世に送り出す仕掛け人だ。そして今回の明日香との出会いは今迄に無い金を生むと判断して強引な揺さぶりを掛けに行った。心の琴線を揺さぶる事に寄って自分の元に頼りに来る様に仕向ける。アルファロメオの車の中。金脈を見付けた事に満足し、クラッチを踏んでローにギヤーを叩き込んでスキッド音を響かせて車を走らせる。何時も仕事(やま)を踏む時には車を転がす。それも尋常では無いスピードを身体に感じさせる。幹線道路を縫う様にして走り、高速道路に入る。回転数8000千回転。セカンドでエンジンのギリギリ迄炒め付けてサードにギヤーを放り込む。身体がシートにめり込む様な圧力を感じる。タコメーターのスピードは130キロを刻んでいる。昼間の高速道路は車が少ない。石川はアクセルとクラッチを巧みに使い分けてアルファロメオの性能を最大限に引き上げる。背後からは覆面のパトカーが停止命令をガナリたてるが、石川は無視をする。時速200キロ。覆面の車程度が追い付けるスピードでは無い。邪魔をする車を巧みに交わして高速道路を疾走する。まるで獣が獲物を追い詰める時の様に野生を感じさせる走りだ。そして高速をぶっ飛ばす事一時間。石川は満足したのか高速道路を下りて自分の店に向けて車を走らせる。頭の中はからっぽに成る程に気持ちの良い快楽が全身を包み込む。セカンドで走らせてN区の自宅兼BARの駐車場に車を放り込んで降りる。十二月の冬の風は冷たい。石川は店の勝手口から中に入って二階の自分の部屋に戻ると、来客者が自分の部屋の様にくつろいでいる。
「和さんか。珍しいね、勝手に私の部屋に入って来るなんて
「なに。上物が手に入ったさかい、英明に売りに来ただけや」
「ほう。先日注文したらもう手に入ったのか。流石は関和弘って所だね」
 石川はそう呟いてソファーに座って煙草に火を点けて紫煙を吐き出し、関和弘に視線を向ける。関は年の頃なら五十を超えた辺りで、髪の毛は短髪で短く紺のスラックスにワイシャツを着込み、黒のブレザーを羽織りボータイを巻いている。何処かイタリア人を彷彿とさせる風貌だ。関の本来の仕事は「関和弘自然・心理学研究所」の代表を務めているが、実態は裏の世界にコネクションを持つブローカーである。関に頼んで手に入らない物は無いと裏の世界では広く知られている。
「今回のブツはええで。MDMAにワシ独自のトッピングで作ったその名もレッドスノーや」
 関はそう云って小分けにされた袋を摘んで石川に放り、石川が受け取り包み紙を開いてスニッフィングする。直後に色彩感覚が鋭敏に成り全身が性感帯に成ったかの様に感じ易く成ってくる。
「いいね。このブツは」
「英明。お前さんが急いだ訳は電話で聞いた通りやねんな?」
「ああ」
「金に成る木が出来た。ワシにしてみたら英明、お前が金を産む機械やけどな」
「まあな。それがこの世の理だからね。需要と供給。世の中上手く出来た物だよ」
「ビジネスの話もええけど。折角の客やで。酒でも如何や?」
「OKだ。何を呑む?」
「お前さんのバーテンダーとしての腕は確かや。外し技でミントジュレップてのも良いけど、矢張りソルティドッグが呑みたいな」
 関の注文を受けて台所でシェイカーを振り、グラスをレモンで濡らして塩をひいたソーサーに付けてグラスの淵に塩を乗せてシェーカーの中身をグラスに注ぎこむ。グラスの大きさにピタリと合ったソルティドッグ。バーテンダーとしての腕前はピカ一だ。
「それで、英明の予定は如何動かす予定や?」
「私が会員制のアダルトサイトを持っているのは知っているだろう?」
「ああ知ってるで」
「今回はそこの客だけに絞る積りだ。勿論金額も今迄以上に貰うがね」
「それだけ強気な姿勢って事は、ターゲットはカナリの上物って事やな?」
 関は酒を飲み乍問い掛けると、石川は静かに頷く。
「完成品楽しみにしてるで」
 関はそう云って一息でソルティドックを飲み干して席を立つ。
「ほな。ワシの用事は終わったさかい是にて失礼するわ」
「ああ。それじゃあ」
 石川は淡白に挨拶をしてソファーに座る。今後如何動かしていくのかを考えるだけで身体の芯が燃える様にたぎる物がある。
「ショーの幕開けだ」
 窓の外。満月が夜空を照らす中、石川は不適な笑みを浮かべてベッドで眠る事にした。

目覚まし時計が朝の時間を正確に告げる。明日香はベッドの中でモゾモゾと動いて目覚まし時計のベルを止めるとベッドから這い出す。今日は学校の創立記念日で休みだ。何処に行こうか考えるが、何故か石川の店に行きたい思いが心に広がる。心の何処かで後一歩踏み出したいと考える。人生を壊すかも知れない。葵との関係がグチャグチャに成るかも知れない。その事を考えるだけで負のスパイラルの思考に落ち込みそうだ。だからこそ石川の店に行こうと思う。パジャマからタイトなジーンズに履き替えて白のセーターを羽織り黒のコートを用意して母親に外出する旨のメールを打って出かける。自転車に乗って風を切る様に走る。肺の中に冷たい空気が入って咳き込む。自転車で二十分程走っただろうか。目的地の石川の店に到着した。木で出来た外観は御洒落で綺麗だ。明日香は自転車を降りてドアノブを回して店の中に入ると、石川が目礼をする。明日香はカウンターのスツールに腰を下ろしてモーニングセットを注文する。石川は慣れた手付きでトーストを焼き乍珈琲の準備を始めて話し始める。
「結論は出たのかね?」
 珈琲の香りが店内に充満する。芳醇な香りだ。明日香は昨日あった出来事を全て石川に語る事にして、一から説明を始める。カウンターにはトースターとゆで卵とサラダに珈琲が置かれている。訥々(とつとつ)と語る明日香に石川は無言で聞いている。その態度に明日香は共感したのか、自分の性癖から義理の父親との契りの内容迄話尽くす。そして涙を流し乍「私は変ですよね?」と石川に問い掛けると、石川は静かに首を左右に振って話し始める。
「常識何て物は幻想だと思えば良い。社会を動かす歯車の一つが常識と云う言葉で固められている。だが、常識に捕らわれる必要は無い。人間はもっと自由であるべきだ」
「でも……女の子が好きなんですよ。それに父には毎週犯されるなんて……」
「君は辛い人生を歩んでいる。それは身体的な弱さも起因していると思うがね」
「そう……ですよね」
「決心は付いたのかね?」
「決心ですか?」
「そうだ」
 明日香は其処で沈黙をする。如何答えたら良いのだろうか。葵を自分の物にしたい。だけれど拒絶をされたとしたら如何か。今の友達関係にヒビが入る事は明白だ。
「此処は私に任せてみないかね?」
「え?」
「私が君たちを誘拐すると云うのは如何だろう?」
「誘拐ですか?」
「表向きはね。それで君は私の命令どおりに動かないと殺されると云う立場を作り上げる。その上で思う存分葵と云う少女の身体を楽しめば良い。私はそれを撮影するよ。そして規定通りのギャラも払おう」
 明日香は思案する。この男の喋る言葉には何処か心の琴線を動かされる言葉の重さがある。この身は何時朽ちてもおかしくない。それなら刹那な快楽に身を委ねるのも悪くないのかも知れない。暫しの逡巡の末に、明日香はお願いしますと頭を下げた。
「決行は明日の日曜日。場所はこの店にしよう。後は万事私の方で手配して置く。二階の私の部屋を撮影現場にする事にしよう」
「お……お願いします」
 勇気を振り絞って明日香は礼を述べて立ち上がると、石川は「代金は結構だ」と短く云ってカウンターに置かれた食器類を片付け始める。明日香はもう一度礼をして店を出る。外の気温はかなり低い。今日は母親は仕事で家を開ける。そして父親は自分の身体を求めて来るだろう。気持ち悪い。反吐が出そうだ。男なんて興味無い。あるのは美しい女性だけだ。
明日香は自転車に乗って自分の家にイヤな思いを引き摺り乍戻る事にした。

 深夜の二時。明日香は父親に犯されている。嫌悪を持っていても身体は正直に反応をする。父親も慣れた物で、先ずはクンニから始める。明日香のヴァギナはヌルヌルに濡れている。
「明日香……お前の身体は最高だ。母さんなんて何の慰みにもならない。お前となら地獄の炎に焼かれても構わない」
 歯の浮く台詞だがクンニは丁寧だ。明日香のラビアを舐め上げてクリトリスを舌先で転がされると、明日香の身体に甘い快楽が駆け巡る。拒絶と表裏一体の快楽。蕩ける様な甘い刺激がクリトリスを中心に広がる。そして父親はシックスナインの体位に成って明日香の口にペニスを捻じ込む。
「う……むぁああ」
 太い肉の棒が明日香の口に侵食して来る。味は苦い。父親はクリトリスを責め乍、ローターを取り出して明日香の膣の中に挿入してスイッチを入れる。
ブブブブ。鈍い音が膣の中で響きローターが暴れ回る。
「ふぁ……あ……い……」
「明日香。確りと口で奉仕するんだ」
 父親は命令口調で明日香にペニスを刺激する様に命じる。生臭い臭いが口の中に広がる。命令を聞かなければ調教と云う体罰が待っている。家庭内暴力だ。明日香は口を巧みに使い父のペニスに奉仕する。舌先を器用に使ってカリを刺激し乍、イヤらしい音を部屋に響かせる。ジュル・ジュル・ジュル。明日香のフェラチオに満足気な父親は明日香の口からペニスを抜き去り、正常位の体勢に成りペニスを明日香のヴァギナに押し当てる。
「良い声で泣く様に成ったな、この淫乱娘が!」 
 言葉に因る罵倒が始まる。
「気持ち良い癖に嫌がる辺りは、お前の母親と似ているな。もっとも膣の締まり具合では明日香、お前の方が格段に上だがな」
 ペニスをヴァギナの入り口に押し当てて挿入すると見せかけては止めると云う行為を父親は繰り返す。
「さあ。何処に俺のペニスが欲しいか云って見ろ」
「や……いやだよ……」
 明日香は些細な抵抗をする。何時もそうだ。言葉責めで明日香を恥辱の底に叩き落す。だが、身体は正直な物で、ヴァギナからは愛液がダクダクと溢れてベッドのシーツを濡らす。
「わ……私のアソコに下さい……」
「何が欲しいか云え」
「は……恥かしいよ」
「命令だ。それともこの侭で放置しても良いンだぞ」
 頭の芯が痺れる。快楽の海にダイブしたい思いが明日香の頭の中で乱反射する。そして、何時もの様にオネダリをする。
「わ……私のイヤらしいオマンコに、父さんの太いオチンチンを挿入(い)れて下さい」
「よしよし。良く出来たな。それじゃあ行くぞ!」
 愛液で溢れるヴァギナの中にペニスが挿入される。
「はぁ……ふあ……」
 膣の中でペニスが暴れ狂う。前後に激しくピストンを繰り返す父の身体の動きに合わせて、自然と喘ぎ声が漏れてしまう。
「いいぞ明日香。お前のオマンコの締まり具合は最高だ!」
 ズニュズニュ……パンパンとまぐわいの音が部屋に木霊する。
「次はバックだ」
 父親はそう云って体位をバックに変えて挿入する。悲しいかな膣はヒクヒクと動いてペニスを飲み込んでしまう。
「い……はあ!」
 膣の中に飲み込まれたペニスが膣の深い部分に迄突き刺さり、父親は前後にピストン運動を始める。
「は……うぁ……はぁ」
「良い声でなくな明日香は。それご褒美だ」
 父親は短く呟いて右手の指先を明日香のアナルに強引に差し込んだ。
「い!いや!お尻はらめぇ!!」
「口では嫌がっても、お尻は俺の指を飲み込んでいるぞ!ギチギチと締め付けて離さないのがその証拠だ」
 膣とアナルの同時責めにあい、明日香は狂乱した様に喘ぎ声を上げる。病弱な身体とは思えない程に、獣が雄叫びを上げる様に艶のある声で喘ぐ。
「それ!フェニッシュだ!」
 父親はそう云ってピストン運動を激しくして明日香の膣の中に大量に射精をし、ドクドクと膣から溢れる精液がシーツを汚す。
「少ないが小遣いだ」
 父親はまるで少女を買ったかの様な言葉を呟いて一万円札をベッド脇のサイドボードに置いて部屋を後にした。
―私の存在意義って何……
 義理の父親に犯される事で感じる快楽。だが、それと同時に男が一段と嫌いになる。嫌悪感のスパイラルに入る。明日香はパジャマを着て窓際に立ちリストカットをする。気分が落ち込んでいる時に痛みを感じる事で現実感を取り戻す事が出来るのだ。手首には常に包帯を巻いている。葵も何度もその事に対して苦言をしたが、それだけは頑なに拒んだ。心と身体のヴァランスを保つ只一つの手段がリストカットだった。手首に赤い血が浮かび上がる。明日香はその血を眺め乍、最後の勇気を振り絞る事にした。
―明日。私は堕ちる所迄堕ちよう……
 決意は出来た。後は勇気を出すだけだ。どうせ先の無い人生ならば刹那に散る華に成るのも悪くないと明日香は思う。
 良くも悪くも葵を貶める事に成るだろう。だが、それでも構わないと云う思いの方が強い。何故なら自分の命は儚い泡の様に消えてしまう予感がするからだ。徐々に意識が遠のき始めて、毎日繰り返される夢の世界へと沈んで行った。

 朝のシャワーは気持ちが良い。明日香はシャワーを浴びて私服に着替える。紺のスカートにタイツを穿いて、鼠色のポンチョを羽織る。朝食は食べる気がしない。キッチンの窓から見える空はドンよりと雲が伸びて粉雪が舞っている。奇しくもカレンダーではクリスマスイブだ。自分がサンタに成って葵に自分と云う身体をプレゼントする。それも永久に残る形としてだ。その上でこの身が滅んでも構わない。
 ブーツを履いて玄関を出る。自宅と外との外気の差で心臓が早鐘の如く鼓動が早くなる。痛みの伴う生。今日のこの日を死ぬ迄忘れる事は無いだろうと明日香は考える。引っ込み思案で他人に対して何時も遠慮しがちな性格。そんな自分を打ち砕く為に今日と云う日を乗り越えようと思う。前日に葵には素敵な喫茶店があるから行こうと云っている。駅前で待ち合わせだ。
自転車をこいで行く。駅前は人ごみで溢れかえっている。クリスマスイブ。恋人達が愛を囁き合う事の出来る素敵な日。そんな日に明日香は自分から堕ちる道を選んでいる。葵となら奈落の底に落ちても構わない。身体は汚れているけれど、心迄汚れた訳では無い。そう何度も云い聞かせ乍駐輪場に自転車を置いて駅前のロータリーで待っていると、ジーンズにパーカーを被った葵が手を振って近付いて来た。
「メリークリスマス明日香!」
 元気な葵の挨拶に明日香はたじろぐ。今から起きる事はリアルなレイプ行為だ。犯罪だと云っても良い。だが決断した事だ。葵の挨拶に曖昧に明日香は頷いて「行こうか……」と短く呟いて先を歩く。足取りが軽やかな訳が無い。緊張と興奮が心の中で入り混じる。
 駅から歩く事数十分。石川の店の前に立った。
「へえ。こんな所にこんな店がある何て知らなかったよ。何時知ったんだい?」
「うん。実はこの間酔っ払いに絡まれている所を助けられたの。それでね……」
 石川との出会いのくだりを説明をすると葵は頷いて話し始める。
「成る程ね。命の恩人って訳だね」
 葵は何も疑う事無く頷く。明日香はそんな実直な葵の心に嘘を付いている事に背徳感を感じるが、もう後戻り出来無い。堕ちる所迄堕ちてしまうだけだ。
 入り口には本日貸切と云うプレートが掛かっている。明日香は静かにドアを開けると、石川が麻の布でグラスを黙々と磨いている。
「いらっしゃい。良く来たね」
「こんにちは。明日香がお世話に成ったって聞いたんだけど。本当に有難う」
「君が、明日香君が噂をしている橘葵君だね」
「なんだ。僕の話をしてるんだ」
 葵は満面の笑みで明日香に微笑み返す。だが、この笑顔が数十分後には快楽の世界を泳ぐ表情に成るとは葵は考えもしない。
「今日は貸切にしているんだ。二人とも遠慮無く飲食してくれたまえ」
 石川は短く呟いて笑みを浮かべる。ニヒルな笑みだ。何処か世情に対して冷めた感じの印象を受ける。
「二人とも珈琲で良いかね」
 石川はジャズの流れる店内で二人に問い掛けると、二人とも頷く。そして石川は特性の珈琲を淹れる。そう。レッドスノーの入った特別オーダー制の珈琲だ。砂糖入れの中に件のレッドスノーを混ぜ合わせている。子供がブラック珈琲を飲む訳が無い。全て計算された上での行動だ。石川の動きには無駄が無い。
 カウンターの上。珈琲カップが二つ並べられ、当然の様に二人は砂糖を入れて飲む。そして無駄話をしている間にも二人の顔は紅潮して来るのが分かる。
「二人とも顔が赤いね。体調が悪いんじゃないのかい?」
 石川は誘い水を仕向けると、明日香が予定通りの反応で「はい」と答える。段取りは完璧だ。石川は頷いて「二階の部屋で休むと良い」と云って二人を先導する。ギシギシと足音が響く階段。この軋みが快楽の軋みへの第一歩に成る事を葵だけは知らない。
 広いリビング。一人で住むには十二分な広さだ。明日香と葵はソファーに座るが、明らかに変だ。それもその筈だ。ダウナー系の薬を機軸に合成された特性の薬なのだ。身体に変調を起こさない方がオカシイと云う物だ。
 静かな部屋に荒い呼吸が木霊する。機は熟した。明日香の耳元で「準備は出来た」と呟くと、明日香は意を決したかの様に葵に視線を向ける。その視線は蕩けるジェリーの様にトロンとした視線で葵を見つめている。
「葵……」
「う……うん。如何したの……」
「私は、葵の事がずっと前から好きだったの……」
「えっ?」
 静寂が訪れる。葵にしてみれば青天の霹靂と云う所だろう。
「私の思いを打ち明ける為に、この店のマスターにお願いをしたの。アダルトDVDを撮影して欲しいって……」
「明日香……正気なの!」
「葵となら何処迄も堕ちても良い。だって葵の事が本当に好きだから」
 ソファーの上。葵が仰向けに倒れ込んだ上に明日香が覆い被さりキスをする。濃厚なキスだ。ふらつく足取り。明日香は渾身の力を込めて葵を抱き起こそうとするのを石川が手伝う。一人ずつベッドに移動させて、ハンディーカムを回し始める。
 明日香は一枚ずつ服を脱いで裸に成る。ヴァギナは既に湿っている。そしてオドオドした手付きで葵の服を脱がし始める。葵は「駄目!」と口では抵抗するが、身体に力が入らないのか上手く抵抗出来無い。
「良いぞ、明日香」
 石川は舐める様にハンディーカムの液晶に二人の美しい裸が映し出されている。
「葵……御免ね。だけど……私、葵の事が心の底から好きなの」
「そんな事云っても、私達女同士だよ……」
「愛があれば性別何て関係ないもの。私は葵の元気に何時も励まされてきたの。その愛情に触れて私は今迄生きてこれたの。葵は私に取っての命の恩人と同時に、私の憧れの人なの」
 二人の会話は歯車が噛み合わない様な状態で進んで行く、其処で石川は更に場の空気を一蹴する為にレッドスノーをソーサーに散りばめてアイソトニックのドリンクで液状にして注射器で液体を吸い上げて葵の腕に問答無用で注射をした。
「い……いやぁ……」
 葵の全身をレッドスノーが駆け巡る。快楽の世界への扉は開かれた。もう後戻り出来無い。明日香は葵の乳首を噛み乍、右手で葵のクリトリスを弄る。女同士だから何処が性感帯かは直ぐに分かる。石川はハンディーカム越しに見える二人の痴態を克明に録画する。明日香自身もレッドスノーで全身敏感に成っている。徐々にテンションが高まって来たのか、明日香は葵のヴァギナに唇を押し当ててクンニを始める。
 ズニュ……ズル……ジュル……
 静かな部屋の中に愛撫する淫猥な音が響く。明日香は両手でヴァギナを開いて舌を膣に挿入する。温かい膣の中。グニュグニュと舌を動かして明日香は責めると、葵は歓喜の声にも似た雄叫びを上げて喘ぐ。
「い……イヤだよ……僕は……こんな形で明日香と結ばれたく無い……よぉ」
「御免ね葵……でも、私は何時死んでもオカシく無いから、後悔だけはしたくないの。私の我侭なのは分かっているの。」
 クンニをし乍話す。恋人同士の会話の様でもあり、そうでも無い様な会話だ。只一つ云える事は、明日香は葵の事が好きであり、葵も又、明日香の事を嫌いでは無いと云う事だけは確かだ。明日香は懸命にクンニする。憧れだった葵の身体と一つに成れる。この思いだけで心は大海を泳ぐ魚の様に優雅な気持ちに成る。舌で十二分にクンニをした葵のヴァギナに明日香は右手の人差し指と中指を差し込んで膣の中で蛇の様に巧みに指をグニュグニュと動かして葵を快楽に導く。葵は喘ぎ声を上げ乍涎を垂らして快楽の世界を泳いでいる。
「二人とも準備は良い様だな。明日香君にプレゼントだ」
 石川はそう短く呟いて双頭のディルドーをサイドボードから取り出して明日香に手渡す。ヴァイブ等の大人の玩具は使い慣れている。明日香は双頭の片一方を自分のヴァギナに挿入する。
「はあ……ふぁ……」
 根元まで差し込み、正常位の体勢で葵のヴァギナに擬似ペニスを宛がう。
「葵……一つになろう……」
 明日香はそう短く呟いて腰に力を入れてグッと葵に膣にヴァイブを差し込むと、葵は痛がった。
「痛い……痛いよ!!」
 明日香は視線を葵のヴァギナに向けると流血をしている。葵は処女だった。明日香は戸惑いと同時に好きな葵の処女を奪えた事に背徳感と同時に気持ち良い感情が湧き上がる。
「葵と一つに成れた……」
 自然と明日香の頬に涙が流れ、唇は葵の唇を求めて熱いキスをする。その光景の一部始終を石川は撮影している。あらゆるアングルで撮影されるこの映像は、最早芸術の粋に達していると云えるだろう。
 葵は処女を失った痛みから、徐々に快楽の波に飲み込まれて行く。喘ぎ声が部屋に木霊する。明日香は正常位の体位からバックの体位に変えて後ろから葵を責め抜く。
「は……あ……うぁ…僕……頭が変に……成りそう」
 バックでガンガン責める明日香。それを受ける葵。女性同士のレズシーンはかくも美しい。このデーターは金に成る。石川はニヒルな笑みを浮かべ乍裸に成る。ハンディーカムを数台固定して撮影をする。あらゆるアングルの撮影が可能だ。
「そろそろ、男のペニスも欲しいだろう。明日香君は騎乗位の体位で葵君を責めてくれ。私はバックからアナルを犯そう」
 石川の言葉に明日香は頷き、葵は正反対の拒絶の反応を見せるが、レッドスノーで全身性感帯に成った葵は性奴隷の様に喘ぎ声で対抗をするが、明日香が騎乗位でヴァイブを挿入して石川がアナルに問答無用でペニスを挿入する。
「いあ"……痛い!痛いよ……抜いて……お願いだからぁあああ」
 葵は絶叫をする。今迄感じた事の無い痛みが全身を駆け巡るが、それと同じだけの快楽の波が押し寄せて来る。痛みと快楽。相反する刺激が葵の身体を苛め抜く。
「口では嫌がっても、腰が自然に動いているじゃないか。この淫乱娘が!」
 石川が蔑んだ言葉を葵に叩き付けると、葵は両手で顔を隠して懇願する。
「お願いだから……もう止めて……身体が持たないよぉ……」
 ズニュ……ズニュッ……ズルルルッ……
 石川と明日香が同時に二つの穴を攻める事で、葵は半狂乱の状態に陥っている。そうして石川は一発目の精子をアナルに射精をして、引き摺りだすと直ぐに葵の口にペニスを捻じ込みイマラチオをさせる。葵の口からは涎が溢れてダラダラと頬を伝ってベッドのシーツを汚す。
「むあ……はあ……うぁ」
 葵は喘ぎ、明日香は快楽に溺れ石川は冷静に犯す。三人がベッドで絡まり合い乍快楽の奈落に堕ちて行く。
 ギシギシとベッドが軋み、葵は狂乱の中で徐々に快楽に目覚め、自分から腰を振り始める。石川はハンディーカムを片手にハメ撮りを始める。ジュルジュルと淫猥な音を響かせて明日香は騎乗位で葵を攻め抜き、二人同時に絶頂を迎え、倒れ込む様に意識を失った。
「ふう。良い撮影が出来た。これは高値で売れるな。この侭家に帰すのも勿体無い。飼育するとするか」
 石川は不適な笑みをを浮かべてポツリと呟いた。

 季節は春に差し掛かっている。二人は消息不明の侭でニュース等で時折報道されるだけに成っているが、実際は石川の自宅で性奴隷として生きている。あの日、明日香と葵の契りを結んだ日を境に、二人は快楽に狂い、薬が齎す甘美な世界に酔いしれた。平たく云えばジャンキーに成っている。
 ネット上でデーターを売買しているが売り上げも鰻上りだ。
「そろそろこの二人も必要無いな……」
 ベッドで寝息を発てている二人を石川は眺め乍薬の入ったアンプルを切り、注射器にインシュリンを吸い込ませて、一人ずつ注射をする。最早注射は性的な快楽を齎してくれると二人は信用して抵抗しない。だが、インシュリンとは摂取し過ぎると死に至る危険な薬だ。勿論この薬自体関から買い上げた物だ。二人に十二分なインシュリンを注射して意識不明にした段階でアルファロメオの後部座席に二人を座らせて煙草を燻らせ乍クラッチを切りギヤーをローに叩き込んで車を走らせる。東京都N区には大きな雑木林がある。ネット上では自殺したがる人達のメッカとして有名である。深夜の道を100キロ近いスピードで加速させる。そして雑木林に到着をしてエンジンを止める。石川は煙草を咥えて紫煙を吐き出し乍、皮の手袋を両手に付けて、先ずは葵の首にロープを巻きつける。そして、手頃な木を見計らい、首吊り自殺を装う。ギリギリとロープが唸りを上げて葵の身体は宙に浮く。葵はその時に成って始めて自分が殺されると感じて抵抗するが、インシュリンの過剰摂取の為に意識が朦朧として上手く動けない。そして一人目の遺体が完成した。そして二人目の明日香。明日香も意識が朦朧とした状態でシートの上で虚ろな瞳を開けている。其処で石川は最後の楽しみとばかりに明日香の頬を引っ叩き起こす。
「な……なんですか、ご主人様……」
 完全な性奴隷だ。
「今、葵を殺した所だ……」
「え!?」
「次は君の順番だ」
 葵は混乱する。車外に飛び出す。視界の端には車のライトで照らされた葵の遺体が木からぶら下っている。
「いやあ!葵が!葵が!!!」
 半狂乱の状態で明日香は絶叫する。
「君を木に吊るす事も考えたが、君は黄金率を持つ身体を持っている。正直に答えるんだ。生きたいか?それとも死にたいか?」
 究極の選択だ。眼の前で最愛の人が殺された。そして殺した男は最大にして厳しい質問をぶつけて来た。
「葵のいない世界なんて興味無いです……」
「人は何時か死ぬ物だ。葵は死ぬ運命にあっただけだ。君は金を産む機械だ。私と提携して金を稼ぐのも悪くないと思うがね。勿論薬もプレゼントしよう」
 薬のプレゼント。魅惑的な響きだ。だが、明日香は混乱から立ち直る事が出来無い。其処で石川はレッドスノーを腕に無理やり注射をする。すると半狂乱だった明日香が落ち着きを取り戻して眼が虚ろに成る。絶望と拒絶から一転して薬が齎す快楽で思考が纏まらない。大切な葵が死んだと云う事実を受け入れると同時に拒絶もしている。如何すれば良いのか分からない状態だ。
「是、私と今の薬の売買とアダルトDVD作成に協力してくれるのなら、君の身体専門家に見せて健康な状態に持って行く事も可能ではある。つまり生きる気があるか如何かだ」
「私は……私は……」
「葵君は死ぬべき人材だった。十二分に金を稼いでくれたがカリスマ性が無い。その点、君にはそのカリスマがある」
「私は生きて貴方の奴隷に成るって事なの……」
「そうだ。奴隷として生きて死を迎える。それも悪い事じゃ無いと思うがね」
 暫しの逡巡。一陣の風が吹いて木の葉を巻き上げる中、明日香は静かに首を立てに振った。
「OKだ。これからは君は私のビジネスのパートナーとして生きて行けば良い」
 今の明日香は薬に支配されている。否。始めて薬を打たれた時からマトモな思考回路等は無い。石川は明日香を車の助手席に乗せられる。
「それじゃあ、新しい仕事の幕開けだ」
 石川はそう呟いてスキッド音を響かせ乍車を走らせた。

 夏。空には入道雲が広がっている。街角で明日香は女性と話している。石川と手を組んでAV関連のマネージャーを生業にしている。薬とギャラ。この二つで明日香の人生は変わった。親には家出するとの旨の手紙を書いて関係を切っている。そして身体の方も関が主治医になり体調は良い。今ではアダルト業界のヴィーナスと呼ばれ、明日香が主演するAVは爆発的に売れている。今ではAV女優とスカウトの二束の草鞋状態で生きている。そして葵が死んだ事は遠い過去の様に思う様に成っている。そして、又一人の少女が石川の毒牙に掛かろうとしている。
「私石川プロモーションの斉藤明日香と申しますけれど、少しお時間良いですか?」
 街角の中。明日香はスカウトをし乍、自分の生きがいを見出している。これから先の人生を考えない刹那的な生き方。明日香はその道を選んで今は生きている。そう石川の下僕としてだ。道路の端には石川のアルファロメオが蹲っている。
―馬鹿正直に社会の歯車に成る人生なんて下らない
 石川は心の中でポツリと呟き、錬金術の元である明日香を調教し乍アンダーグラウンドの世界で生きて行く事に対して改めて覚悟を決めた。